不足する情報部門の人材、アウトソーシングも視野に
変革する医療現場を支えるDXのチカラ~座談会シリーズ~vol.2
ネットワークインフラとITサービスを手掛ける「アライドテレシス」(東京都品川区)が提供する、医療現場で変革の旗手を担うキーパーソンと考える特別企画「変革する医療現場を支えるDXのチカラ~座談会シリーズ~」。vol.2は、富山大学附属病院医療情報・経営戦略部部長で同大学術研究部医学系教授の高岡裕氏と考えました。
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岡本氏 富山大学附属病院様では、どのようなDXに取り組んでいるのでしょうか。
高岡氏 ここ数年来の主な取り組みとして▽ネットワーク基盤の更新整備の実施▽オンライン医局カンファレンスの導入▽電子カルテ端末用のプリンタ管理▽会計待ち時間の短縮▽病院関係者間で患者情報を共有できる専用アプリの導入-などがあります。今年4月からは電子処方箋を導入しました。
岡本氏 電子処方箋の利用状況はいかがでしょうか。
高岡氏 当地では、電子処方箋を希望する患者さんがいないのですよ。都会では違うかもしれませんが、地方の患者さんはお年寄りが多く、デジタルへの対応が進みにくい環境にあります。こんなこと言ったら国からお叱りを受けるかもしれませんが、当院ですと、受付に設置しているファックスで紙の処方箋を無料送信できるサービスを提供しており、院内から薬局に処方箋を流せます。そうすると国が考えている“電子”ではないですが、患者さんからすると“処方箋がすぐに薬局に届き薬を用意してくれる“、という点では変わらないわけです。なので、患者さん側は、電子処方箋へのメリットをそれほど感じないのではないでしょうか。例えば患者さんの医療費が少し減るとかであればまた変わってくるかもしれませんが、それでも10円や20円レベルではなかなか難しいと思いますね。
皮肉な話ですが、利用する患者さんがいないため、今のところ現場での混乱はありません。ただ、いずれ電子処方箋を希望する患者さんは出てくるでしょうから、さまざまなトラブルを想定しながら、スムーズな運用ができる体制を準備しています。
7月26日にアライドテレシスさん主催の医療ネットワークオンラインセミナーで、「病院から地域まで ~DXで拓く未来~」をテーマに講演し、その中で、患者に扮した当院の職員が、医師の電子処方箋発行から薬局での受け取りまでの実際にあったことを紹介させてもらいました。そこで起きたことは▽医師が電子署名で入力するPINコードの誤入力▽電子処方箋利用の患者を薬局側が想定していない▽処方の取り込みエラーで再度処方入力が必要になった-などです。
当院の医師も電子処方箋を発行したことがないので、当部の職員が横について操作をしてもらいました。相当わかりやすいマニュアルを用意しても、PINコードの入力を間違えるなど、一通りの操作の流れを覚えてもらうには時間がかかります。操作できる医師を増やすための地道な取り組みが必要です。
薬局さん側はマニュアルを持っていましたが、やはりすぐに対応はできなかった。その理由としては、取り込みの失敗や操作ミスなどがあったと聞いています。
結局、患者さん側と医師と薬局全てが電子処方箋に慣れないと回らないですね。
木村氏 正直、もっときれいに動いているのかと思っていました。
岡本氏 電子処方箋の運用試験のお話は、大変興味深かったです。高岡先生のご講演はアーカイブでも配信しており、反響がとても楽しみです。
木村氏 今回のセミナーでは非常時の体制・対策についてのお話もありましたが、サイバー攻撃を受ける医療機関が数年前から増えています。被害に遭った病院さんは「攻撃を受けた時点で何をどうしていいかわからない」と話されていました。先ほど、高岡先生から電子処方箋は慣れだとありましたが、サイバー攻撃への迅速な対応も、普段からの訓練が必要なのでしょうね。
高岡氏 何か起こった時に考えるのでは恐らく対応ができないので、考えずともすぐ動けるようにマニュアル化することがとても重要です。その際、いくつかのシナリオを用意してパターンを作っておくということが大切だと思います。
ただ、こうした対応は危機管理であり直接収益につながらないため「分かってはいるのですが…」と、多くの病院では後回しになってしまっているのが現状です。ですので、作成のきっかけがあるといいですね。当院が受審した病院機能評価 3rdG:Ver3.0ですと「患者の個人情報を適切に取り扱っている(1.1.5)」の中の“個人情報の物理的・技術的保護”や「院内で発生している情報を有効に活用している(4.1.4)」の“診療情報の管理・責任体制とセキュリティ対策”という項目や、今回改定された診療録管理体制加算1で求められる「特別のサイバーセキュリティ対策」などを理由にして、病院経営陣や各診療科などへ強くお願いができます。5年に1回ぐらいある特定共同指導や共同指導の実施年などもいいきっかけになります。必要なことはみなさん分かっているのですが、収益に直結する内容ではないため、タイミングがとても重要ではないでしょうか。
青山氏 いろいろな病院さんを訪問していて感じるのが、ネットワークの知識向上の難しさです。われわれはネットワークに触れる職業なので、知識は日ごとに増えていくのは当たり前ですが、ユーザーさんはそうではありません。ネットワークに触れるのは何かトラブルがあったときだけで、その経験を通じてより詳しくなると私は思っています。ただ、その経験がいつ生かせるのかというと、次のトラブル時で、1カ月に1回などの頻度で発生すれば相当知識は積み重なると思うのですが、実際は数年に1回ほどです。そのあたりの教育などで何か取り組まれていることはありますか。
高岡氏 海外では病院の情報部門に多くの要員を置いており、アメリカでは日本の10倍ぐらいです。アメリカは自由診療がメインなので単純に比較はできませんが、日本の病院は特に脆弱ではないでしょうか。人材が不足しているので、セキュリティーやITに関してある程度分かる人を一般の職員の中から、つくらざるを得ない。ただ、それをやるための原資もないため、われわれが手弁当で勉強会を開き、こうした職員に情報処理技術者試験などの国家試験にチャレンジしてもらえるように、前職の神戸大の時から取り組んでいます。今年は当院の職員5人が参加し、資格取得に向け頑張っています。
青山氏 中小規模の病院さんを訪問すると、総務課の職員さんが兼業でやっている姿を見ることがあるのですが、高岡先生がご所属の大病院でも人材確保に苦労しているのは驚きました。中小病院ですと高岡先生のような指導される方がいないケースが大半ですので、SEさんを助けるサービスを提案したほうがいいのか、システム全般のサービスを提案したほうがいいのか迷うことがあります。
高岡氏 今年4月から県内のある公立病院で病院長を務めている先生も、情報部門で全体を見渡せる人材が本当にいないとおっしゃっていました。今後、生産年齢人口が大幅に減る中、さらにその多くは都市に吸い寄せられ、地方で情報部門だけでなく、人材そのものを確保することが相当難しくなると思っています。計画策定やシステム運用そのものを担う担当者については、各病院でそれぞれ育てなくてもアウトソーシングで対応していかざるを得ない時代になりつつあるのではないでしょうか。
岡本氏 さきほど青山が申し上げた通り、兼業でシステムにかかわっている総務課の職員さんからすると、何かあれば業者に聞かないと分かりませんし、その業者からも「それをやるのでしたらお金がかかります」と言われ、稟議書を書かなければ-。こんな状況が、まだまだあるのではないかと思います。
木村氏 高岡先生のお話をお聞きし、医療の改革と推進のために今後どのような役割をわれわれが果たすべきなのか、とても大切なヒントをいただきました。ありがとうございます。
高岡氏 さまざまなシステムの導入支援や導入後の運用支援という部分が多分とても大切ですが、病院の人材は不足しています。また、医療情報は収益部門ではないので、お金はあまりかけられない。そこの脆弱さを突かれ、いくつかの病院ではサイバー攻撃の被害に遭ったということです。被害に遭った病院の事例を見て、他人事とは思わず、「うちは大丈夫か」と考えながら、できることからやっていくという病院の姿勢が大切ですね。今の例はセキュリティーですが、DXに取り組む際に、病院によって解決したい課題や導入のハードルは異なります。さまざまなDXに着手している当院をヒントに、各病院に合ったポイントを取り入れて、課題改善につなげていっていただければ嬉しいです。
▽本座談会のもととなったセミナーをアーカイブ配信中。
下記アライドテレシスHPよりお申込みのうえ、ご視聴いただけます。
「医療DXの推進とこれからのWi-Fiのポイントとは」
▽アライドテレシスの医療機関向けソリューションについてはこちら
▽変革する医療現場を支えるDXのチカラ~座談会シリーズvol.1~
タスク・シフト/シェアの実現、ヒューマンセンタードの中でのDX
https://www.cbnews.jp/news/entry/20240604075813
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